Web小説と、作者と読者の「お約束」

「なろう」になじめない中年作者が思ったことを書くエッセイ 「なろう」になじめない中年作者が思ったことを書くエッセイ
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このエッセイは、小説家になろうでの連載作品を一部改稿のうえ転載したものです。
 その点をご留意の上、お読みください。

しょっぱなから身も蓋もないことを書くが、私はあまりWeb小説を読まない。
さらに追記すれば、私はWeb小説も書いていない。

「この人、なに言ってんだ……?」と思った諸兄は、慧眼である。

自分でも、なに書いてんだろう、と思う。
だから先の疑問は、とても正しい。

そもそもの発端は、最近になって得た「気づき」だ。

インターネット上には小説投稿サイトが乱立し、書店の一角はけばけばしく感じるほど派手な装丁の書籍化Web小説に占拠され、過去の名作ライトノベルもチャットノベル・アプリで読めちゃうような、こんな時代。
中年ながら時代の流れについていこうと、自分でも書いたり、書いた作品を投稿したりして、少し何かが見えてきた。

どうも、Webで公開していればWeb小説、というわけではないらしい。

Web小説には、Web小説らしさがある。
ケータイ小説が、紙の本に印刷されても「ケータイ小説」であるように、Web小説にも独特の雰囲気や文体の傾向がある。あるはずである。

内容の話ではないのだ。

……たぶん。

正直な話、この文章も手探りで書いている。
「Web小説らしい文章とは、こういうものだ!」と断言できたらいいのだが、書いているうちにまとまればいいなと思っているのがこのエッセイなので、現状お見せできる答えは何もない。御免。

くわえて、人気のWeb小説や、書籍化・コミカライズ・アニメ化された作品群は、どうしても似たような傾向に見えてしまうから悩ましい。
商業的に寄せているから、というのもあるだろう。ひとつ人気作が出れば、二匹目のドジョウを狙う輩が現れるのは昔からよくある話だ。
とは言え。個々の作品を見れば、いずれも個性的で、各々に特有の面白さがある。違うキャラクター、違うストーリー。
「テンプレがー」などと言いたいわけでもない。

注目したいのは、説明不要の「お約束」だ。


こう書くと、また誰かの怒りに触れそうで怖いのだが……とりあえず読んでちょ。

「お約束」とは、読者にとっての既知の情報だ。

二次創作なら、原作キャラクターの設定やエピソード。
現代小説なら、現代の風俗や常識。

作者と読者のあいだに共通認識ができているのであれば、説明はいらない。
日本語で書いた日本人向けの小説で、いちいち「テレビとは動画と音声を受信する機械装置で」などと書いてはいられない。
想定される読者が知っているであろう情報は、省略してもいいのだ。

(ただし、前述の例なら「語り手がテレビを知らない」場合は、書く意味があるし、それが小説の面白さになる)

では、Web小説における「お約束」とは何だろう?

個人的に、一番大きなお約束は、ファンタジー用語ではないかと思う。
ファンタジー用語とは、つまりは異世界の言葉だ。本来なら私たち読者が知るはずもない、こことは違う世界の、現象や生物、文化などを指し示す言葉である。
民間伝承や神話が源流にある用語もあるが、それもいわば「向こう側の世界」であることには変わりがない。

誰も見たことがない、実感を持って知るはずのない言葉。

にもかかわらず、私たちはエルフと言われれば、魔法を扱う色白で華奢な人々を思い浮かべる。
ドワーフなら、ずんぐりむっくり、髭もじゃで、手先が器用なおじさんを。
ゴブリンは小柄で痩せていて、しかし素早く、トロールは大きくパワーがあるが、動きがのろい……

種族名を読むだけで思い描くことができるイメージは、読者が過去に見た小説や漫画、アニメ、映画の賜物である。
知っているから、イメージができる。
書かれていない描写も、過去に触れて記憶したエルフの情報から補完することができる。

書き手の立場から見れば、こんなに気楽なことはない。
小説を書く時、やっかいなのは、未知の事象をいかにリアリティを持って表現するか、だからだ。

作者と読者のイメージするエルフが同じものなら、極端な話エルフの説明はいらない。
もし読者のイメージするエルフと違うものを書きたいなら、話は別だが。しかし読者の予想を裏切る面白い描き方をすることができるだろう。

ただ、もちろん世間にはエルフを知らない人もいる。
うちの母に「エルフの耳ってさー」と言っても、「は? なんね?」と聞き返されるのがオチだ。
相手によっては「いすゞのトラックがどうした」と言われる可能性もある……

でもね。
そういう人は、たぶん、エルフが出てくるようなWeb小説は読まないんですよ。

もちろん書き手として、そういう人に向けてエルフの出てくる小説を書いたっていい。
エルフとはどんな人々か、どういう暮らしをしていて、どんな姿をしているか、丁寧に描けばそれなりに面白い小説ができると思う。そういうWeb小説があっても、何もおかしくはない。

でも例えば、主人公が「だってアランはエルフだから」と言っただけでは、エルフを知らない人にとっては何のことやらわからないだろう。

(エルフだからなんだ)
(てか、エルフって何だ?)

もし、作者の想定する読者がエルフを知っているとして、ここで説明を入れるだろうか。
入れる人もいるし、入れない人もいるだろう。
その説明を見て、面白いと思う人もいるだろうし、余計だと読み飛ばす人もいるかもしれない。

正解はない。
けれどもし説明不要なら、それは「お約束」と言っていいのではないだろうか。


Web小説は、ネットにさえつながっていれば、どんな人でも読むことができる。

しかし、一方では、ひどく読む人を選んでいるような気もする。
「お約束」が通じる人だけを相手にした、内輪の世界にも見えるのだ。

まとまりきらなかったので、次回に続く。

過去の<br>マスター
過去の
マスター

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

「Web小説ってなんだろう?」と考えていたら、こんな流れになりました。
なお、本文でも書いていますが、私は「お約束」否定派ではありません。「お約束」を知らない読者さんも大歓迎ですし、私自身「お約束」がわかってなくても平気で読んだりします。

未知を知る、これぞ読書の実りなり(どこの標語か?)

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