明星

明星- 5/19のスケッチ - 小説
この記事は約1分で読めます。

 のぼる坂の先に、金星がまたたいていた。
 五月十九日、夜七時半ごろのことだ。

 坂の上から来た白いマルチーズを連れた女性とすれ違い、脇道の真新しい街灯の下で談笑する小父様方を横目に見て、右にゆるくカーブした歩道にもう一度視線を移すと、ほれぼれするような電線のシルエットが目に飛びこんできた。藍色あいいろのスクリーンを切り抜く、迷いのない直線と曲線。

 よい明星みょうじょうは、その電柱の上にいた。

 真っ暗闇をまとった電柱とは正反対の明るさで、星は空の藍をつらぬいている。太陽の気配は遠ざかり、月は姿を見せず、他の星々など芥ほどにも見えやしない今を、自分が主役とばかりに輝いている。その輝きは、きっと刻一刻と増していくのだろう。一番星から下へ目をやれば、やわらかなクリーム色の光が、漂う雲を照らしている。地平の先に去った太陽の残滓。ぬくもりはすでになく、山や木々や地上のあれこれに濾しとられて、消えていく灯。西の空から天空を見上げ、東を振り返れば、藍は黒へと近づき、玄い夜の帳を今にも曳こうとしている。

 昼と夜の間、夕刻と夜のさらに間。
 宵の女神は誰れの手を取ることもなく、ひとり舞台でステップを踏む。

「読んだよ!」と教えてくれると嬉しいです。
  • 読んだよ! 
  • また今度! 
タイトルとURLをコピーしました