短編小説『おとなの一歩』と福川一夫先生に関するアレコレ

日記
この記事は約7分で読めます。

今日、短編小説『おとなの一歩』を公開しました。

この作品は、私にとって初めて「本屋さんに流通する本」に載った作品です。
今とは違う筆名ですが、例によって詮索しないでください……と言っても、本を読まれればわかる話なんですけどね。(ネットなぞにあげちゃダメですよ)

今回、ブログに載せるのを機に、こちらの本を読み返してみました。
開いてみると、要所要所に三色ボールペンの線や丸が。さっぱり覚えていませんが、若い自分はそれなりに勉強していたようです。
歳を重ねたからこそ考えさせられる部分もあり、やっぱり本というのは何度も読むものだなと。(そうして本棚が埋まり新たなが本棚が壁を覆っていく)

小説やエッセイなど、文章を書かれる方のお役に立てば幸いです。

執筆時のこと

福川一夫先生は、かつて『週刊プレイボーイ』副編集長や『週刊サンケイ』編集長を務められた元編集者です。退職後はエッセイ教室などで文章指導をされていて、私が通っていた専門学校でも教鞭を執られていらっしゃいました。とはいえ、分校(?)にいた私が指導を受けたのはわずか数日間だけです。特別授業という名目で、そのたびに東京から来てくださっていました。

『おとなの一歩』は、その特別授業で提出した課題のひとつです。

ちなみに福川先生が出された課題は3つ。

  • 縮約
  • 三題噺
  • 写真スケッチ創作

三題噺は、よく耳にしますね。
元は落語の形式で、落語家が客席から3つのお題をもらって一席の話にまとめるというものです。現在ではほとんど行われていないようですが、かの有名な『芝浜』も元は三題噺から生まれたそうな。

閑話休題。

縮約は、元々は大野晋先生がベストセラー『日本語練習帳』で紹介された、文章トレーニングの一種です。福川先生はそこへさらに工夫を重ねて、文章初心者のためのプログラムを編み出されました。
縮約についてはまた後日、紹介したいと思います。

さて。

『おとなの一歩』は写真スケッチ創作の課題から生まれた作品です。先生から提示された1枚の写真をモチーフに、生徒それぞれの物語をつづります。

私たちに配られたのは、屋台でおでんを食べる男女の写真でした。

2004年の話ですが、いつ撮られたものか、写ってる人が妙にバブリー……というのが私の第一印象です。

とりあえず、この件には触れずに行こう……
さあ、どんな話にしようか?

提出〆切までにはまだ時間があります。私は他の作業を進めながら、構想を練っていました。提出要項は400字詰原稿用紙で4枚。要領よくまとめなければ納まりません。

くわえて、写真スケッチ創作の肝は「いかに描写するか」です。ストーリー展開に文字数を割きすぎれば、課題のクリアが遠くなってしまいます。

ある日のことでした。
私の席は、教室に1台しかないプリンターの横だったのですが、そこは担任であるK先生の別邸ならぬ別席でもありました。(立派な机が教室内に別にある)当時は無線LANもありませんから、生徒の作品を印刷するには勝手がよかったのでしょう。
その日もK先生は私の背後に座っていて……他の生徒へ指導をされていました。

「屋台はそんなに暖かくないよ」

おおう? 屋台?
さてはこいつは、福川ゼミの創作課題では?

俎板の上のW君はアララコララ言われておりましたが、ここは彼の名誉のために割愛しましょう。

私にとっての僥倖は「どうやら冬の屋台は、それなりに寒いらしいぞ?」という気づきでした。

何しろこちとら宮崎の田舎育ちです。屋台なぞ遭遇したこともありません。
福岡に来て、見かけたことはありましたが、飲みにも行かない未成年の貧乏学生にとっては変わらず縁のないものでした。

ほう、これはいいことを聞いた。
屋台は寒い。でも、暖かい気がする。どうしてなのか? ちょいと、そこを書いてみようか。

そんなわけで『おとなの一歩』は生まれたのでした。

『おとなの一歩』の評価

早々はやばやと提出して撃沈したW君の尊い犠牲により、『おとなの一歩』は思いがけずよい評価をいただくことができました。

しかしながら、至らなかった部分ももちろんあります。

後日、福川先生は『真似から始める文章教室【縮約練習法】』を編著・出版されました。そこに、私の書いた『おとなの一歩』も収録されたわけですが、ページ下部には先生からの「うまい・へた・はげまし」コメントが書かれています。

以下、その中から一点だけ引用させていただきます。

★問題は観察の細かさ「鋭く、深くものを見る眼」についてです。
〈風を遮る暖簾も、温かいのは真っ赤な色合いだけ〉
〈吹きこむ風が、湯気を揺らす〉
これらは写真から得た情報を元に描写されています。
〈鍋の中はコンビニみたいな仕切りもなく、十数種類の具がごった煮になっていた〉しきりがないという見方は鋭いと思います、しかし「十数種類の具」これを丁寧に記述してほしいのです。
 この「写真スケッチ創作」は、初心者の文章力強化と観察力を高めることを目的としています。
 物語を紡ぎながら、写真に現れている事象をこまかに挿入していくのが望ましいのです。「大根」「玉子」「厚揚げ」「きんちゃく」「ちくわ」と、五種類の固有名詞は出てきます。計算するとまだ五種類以上の具が入っているはずです。こんにゃく、いとこんにゃく、はんぺん、こぶまき、ごぼうまき、さといも、さつまあげ、つみれ、がんもどき、牛筋、これで十種ですが、すべてあるものを書き込みましょう。
 物書きを志す者は観察力をつねに向上させる努力が必要です。たとえば、〈お玉の柄をとり、大根と玉子を探す。鍋の中はコンビニみたいな仕切りもなく、こんにゃく、いとこんにゃく、はんぺん、こぶまき、ごぼうまき、さといも、さつまあげ、つみれ、がんもどき、博多名物の牛筋など十数種類の具がごった煮になっていた〉こんな風に書き込むと、結語のちくわがより美味しく思えてくるものです。読み手は一回食べに行きたいなと感じます。具象描写の効用はこんなところにあるのです。

『真似から始める文章教室【縮約練習法】エッセイ上達の極意』編著:福川一夫

改稿時のこと

『おとなの一歩』は私にとって、お気に入りの作品です。
同級生の中から代表として選ばれ、活字となって本の一部に加わったことも、とてもうれしかった。

その一方、「これで天狗になってはいけない」「これで満足してはいけない」という気持ちも強くありました。だから、頂いた本を家族や友人に見せることもなく、ひとりで読み、自分の書棚にしまっていました。

この性質は、今もあまり変わっていません。

ただ、変化と言えば、ブログを始めて、自分が書いてきたものをもうちょっと見えるところに置いておきたくなりました。

くりかえしますが、私にとって懐かしく、お気に入りの作品なのです。

Web小説として読みやすい形に

まずはWordのデータをコピーして、投稿画面に貼り付けます。
そのままだと、改行ごとに一行あけた体裁になってしまうため、ぽちぽち修正します。

カギカッコの続く会話部分は、詰めて。
改行を挟んでも一息で読んでほしい地の文も、やっぱり詰めて。

ついでに、元はなかった改行も追加しています。

縦組みと横組みでは、受ける印象が違うからです。
あと、原稿用紙4枚では改行する余裕がなかった、というのもあります。

アドバイスを実践! おでんを加筆!

さあ! 次はいよいよ、おでんです!

せっかく頂いた貴重なアドバイスです。
にっくき文字数制限も今やなく、ここで加筆しないルートはありません。

とはいえ、福川先生の訂正案どおり変更するのも、なんだかしゃくです。
自分が食べたいおでんのネタを思い浮かべながら、次のように加筆しました。

お玉の柄をとり、大根と玉子を探す。鍋の中はコンビニみたいな仕切りもなく、ゴボ天に丸天、しらたき、昆布、牛すじ、がんも、こんにゃくと、十数種類の具がごった煮になっていた。

『おとなの一歩』松田紙弥

ポイントは「さつまあげ」ではなく「丸天」「ゴボ天」としたところ。
九州人が、おでん屋・うどん屋で「天ぷら」と言えば、さつまあげのことなのです。

ちなみに、ここでいう「ゴボ天」とは魚のすり身でゴボウを包み、油で揚げたものを指します。
同じ「ゴボ天」でも、うどん屋ではゴボウに衣をつけて揚げる天ぷらになりますので、念のため。

なお、我が家では豚の軟骨も仲間入りします。おいしいよ。

漢字をひらいたり、なんたり

おでん鍋も、すっかり賑やかになりました。

ここから仕上げ、漢字をひらいていきます。
並行して、読点(、)を足したり、ルビをふったり……

女の子が「会社員」と、胸の中でとはいえ呼ぶのも変なので、「会社員のお兄さん」に変更しました。よかったね、お兄さん!

流行りとは真逆かもしれないけれど

最近、ちょっと色々褒めていただけることが多く、自分の描写に自信を持つようになりました。

元々こういう文章が好きというのもあるんでしょうが、福川ゼミを受けて、より「あるがままを書こう」「余さずに書いてやろう」と意識していた気がします。

さっき気がついたんですが、作中では出汁の匂いについて書いていませんでしたね。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚……
文字で表せることが、まだまだありそうです。

リーダビリティを追求する、現在の流れには逆行するのかもしれませんが……私は書き手の視点を事細かに描く文章が、やはり好きなようです。
これからもがんばります。

マスター
マスター

最後に福川先生の本をご紹介させてください。
新刊での入手は難しいかもしれませんが、ぜひ。
珠玉のエッセイ集としても楽しいです!

「読んだよ!」と教えてくれると嬉しいです。
  • 読んだよ! 
  • また今度! 
タイトルとURLをコピーしました